慢性尿細管間質性腎炎

慢性尿細管間質性腎炎とは

尿細管間質性腎炎は、様々な原因(薬剤,感染症,代謝疾患,自己免疫疾患など)により腎臓の尿細管および間質と呼ばれる部位を中心に炎症が生じる病気です。慢性的な経過をとるものが慢性尿細管間質性腎炎に分類されます。背景にある病気や原因によるWHOの分類も広く用いられています(表1)。尿細管間質性腎炎は、様々な原因により生じる腎臓の病気の状態を示す概念であるため、本稿ではなかでも尿細管間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(Tubulointerstitial nephritis with uveitis syndrome:TINU症候群)を中心に説明します。

TINU症候群とは

TINU症候群とは尿細管間質性腎炎とともに、眼のぶどう膜と呼ばれる部位の炎症(ぶどう膜炎)を合併する症候群です。免疫の異常により発症するといわれていますが、詳細な原因はわかっていません。1975年に初めて報告され、2001年になり概念・診断基準が提唱されました。

TINU症候群の症状

TINU症候群では、発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などの全身症状や側腹部痛や多飲多尿など腎臓に由来する症状を呈することがあります。一方、これらの症状は必ずしも見られるわけではなく、他の様々な病気でも見られる一般的な症状であり、症状のみから尿細管間質性腎炎を疑うことは難しいです。ぶどう膜炎による眼の症状としては、眼充血、まぶしさ(羞明)、眼痛、視力低下を認めることがあります。
本症を疑った場合は、検査所見もふまえて診断します。血液検査で腎機能障害が見られることが多く、尿検査では尿細管性蛋白尿の増加(尿中のβ2MGという尿中の蛋白質の上昇が診断のポイントになります)が特徴的で、白血球尿、血尿、蛋白尿、尿糖なども診断の参考になります。また腎生検(腎臓を一部採取し顕微鏡で観察する検査)を行うことが確定診断につながります。Q&Aもご参照ください。
診断時に眼の症状と腎症状が併存しているのは20%程度で、眼の症状が出現した後に腎症状を認める場合や、腎症状からしばらく経って眼の症状をきたすことがあります。したがって、ぶどう膜炎の治療・経過観察中には定期的に尿検査などを行い、尿細管間質性腎炎の経過観察中には定期的に眼科受診を行うことが重要です。

TINU症候群の治療

TINUの治療は、現時点ではガイドラインなど決まった指針がありません。腎症状は自然に治ることもありますが、高度の腎機能障害や全身症状を認める場合は、ステロイドや免疫抑制薬による治療がおこなわれます。治療反応は比較的良好なこともありますが、なかには後遺症として腎機能障害や蛋白尿が残存することもあります。
ぶどう膜炎に対しては、ステロイドの点眼薬やステロイドの局所注射などで改善することが多いですが、治療に難渋することも多く、ステロイドや免疫抑制薬などの全身投与が必要になる場合もあります。

Q&A

1. TINU症候群の病気の患者さんはどのくらいいるのですか?

A. 日本における正確なデータはありませんが、一般的にTINU症候群は、ぶどう膜炎と診断された患者さんの0.2~2%を占め、尿細管間質性腎炎と診断された患者さんの5~28%を占めるといわれています。

2. TINU症候群はどのような人に多いのですか?

A. TINU症候群の患者さんは女性と男性の割合は3:1と女性に多く、思春期・青年期に多いとされています。一方、高齢者での発症の報告もあります。

3. TINU症候群の原因はわかっていますか?

A. この病気の原因はまだわかっていません。自分の免疫システムが自分の細胞や蛋白質を誤って攻撃してしまう自己免疫反応という異常な免疫反応が原因であると考えられています。この病気の自己免疫の標的は腎臓と眼です。

4. TINU症候群はどのように診断されますか?

A. 発熱などの全身症状、眼の症状、学校検尿での尿異常の指摘など、診断につながる契機はさまざまです。一方、学校検尿を含む通常の健康診断で行われる尿検査では、この病気の診断につながる尿の異常を検出できないこともしばしばあります。この病気が疑われた場合には、より詳しい尿検査や眼科診察、必要に応じて腎生検(腎臓の一部を採取し顕微鏡で観察する検査)を行い診断します。
尿細管間質病変と眼の症状を合併する病気としては他にサルコイドーシスがあり、鑑別が必要ですが時に難しい場合があります。その他間質性腎炎やぶどう膜炎にはそれぞれ背景となる原因や病気が様々あることが知られており、腎、眼について診断された後もその原因の検索を必要とすることがしばしばあります。

表1. WHO尿細管間質血管病変分類改訂版(3)より抜粋

  • a. 炎症性尿細菅間質性疾患
    1. 感染症
      細菌性急性/慢性腎孟腎炎、ウイルス感染
    2. 薬剤性
      抗菌薬、鎮痛薬、抗癌薬、免疫抑制薬など
    3. 免疫異常
      ループス腎炎、シェーグレン症候群、lgG4関連腎症、移植腎拒絶反応、TINU症候群など
    4. 全身疾患
      サルコイドーシス、ANCA関連腎炎、慢性関節リウマチ、川崎病など
  • b. 閉塞性尿細管問質性疾患
    水腎症、逆流性腎症など
  • c. 代謝性尿細管間質性疾患
    高Ca性腎症、痛風腎、オキサローシス、低K性腎症、ファブリー病など
  • d. 腫瘍性あるいは増殖性尿細菅間質性疾患
    骨髄腫腎、軽鎖沈着症、血液疾患などの浸潤
  • e. その他

表2. TINU症候群の診断・治療指針(医療従事者向け)

診断基準
尿細管間質性腎炎(TIN)とぶどう膜炎両方の所見を認め、他の全身疾患が除外されたもの
TINの診断基準
病理組織学的診断:腎生検で尿細管間質性腎炎がみられる 臨床的診断:3項目をみたしたものcomplete criteria、3項目未満のもの:incomplete criteria
  • 1. 腎機能異常(血清クレアチニン値の上昇もしくはクレアチニンクリアランスの低下)
  • 2. 尿検査異常(尿中β2MGの増加、軽度蛋白尿、好酸球尿、感染以外の膿尿や血尿、白血球円柱、正常血糖の尿糖)
  • 3. 以下の症状や検査所見を伴った2週間以上持続する全身の病的状態
    • a. 症状:発熱、体重減少、食欲不振、倦怠感、易疲労性、発疹、腹痛や側腹部痛、関節痛、筋肉痛
    • b. 検査所見:貧血、肝機能障害、好酸球増多症、赤沈40 mm/hr以上

ぶどう膜炎の診断基準

Typical
両側性の前部ぶどう膜炎(中間部あるいは後部ぶどう膜炎の有無は問わない)
TIN発症の2か月前から12か月後の間にぶどう膜炎を発症
Atypical
片側の前部ぶどう膜炎、中間部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎、あるいはその混在
TIN発症の2か月以前もしくは12か月以後にぶどう膜炎を発症
急性間質性腎炎 ぶどう膜炎
Definite 病理組織学的もしくは臨床診断基準の3項目を満たすTIN Typical
Probable 病理組織学的診断されたTIN
臨床的診断基準の3項目のいずれかをみたしたTIN
Atypical
Typical
Possible 臨床的診断基準の3項目のいずれかをみたしたTIN Atypical

(Mandeville JT, et al: The tubulointerstitial nephritis and uveitissyndrome. Surv Ophthalmol. 2001; 46: 195-208 より)

この病気に関する資料・関連リンク

ページトップへ