ギャロウェイ・モワト(Galloway-Mowat)症候群とは、頭部(脳神経)と腎臓の2つの臓器がうまく形成できず、小頭症、高度蛋白尿、耳介などの顔貌の形態異常の3症状を認める症候群です。疾患名は1968年に最初に症例を報告した、英国小児科医2名の名前(GallowayとMowat)に由来しています。
原因としては、腎臓のろ過装置である「糸球体」を構成する「糸球体上皮細胞(ポドサイト)」と脳を構成する神経細胞である「ニューロン」とに共通する細胞の機能障害があり、腎臓と脳の形成過程に異常を来すと推測されていますが、いまだ原因となる確定的な染色体異常や遺伝子変異は見つかっていません。
頭囲は眉間
(鼻根部より上部で前頭骨上)から後頭部の後頭骨上、最も後ろに突出している部分を巻き尺で測定する。1mm単位まで計測する。
※前方は左右の眉の直上、後方は後頭部の一番突出しているところを通る周径を測定します。前方はひたいの最突出部を通らないことに注意しましょう。
乳幼児頭囲発育パーセンタイル曲線(平成22年調査)
多くの場合、小頭症とともに精神運動発達遅滞や難治性てんかんを合併します。CT・MRIで、脳皮質形成異常(脳回異常、白質髄鞘形成不全)や小脳低形成などの脳の構造異常を認めることがあります。
ステロイドが効かないもしくは効かないと予測される高度蛋白尿(尿蛋白/クレアチニン比≧1.0g/gCr、または一日尿蛋白量≧1g)を認め、典型的な重症例では、出生3か月までに大量の蛋白尿(ネフローゼ症候群)を来たします。腎障害は進行性で腎不全に至ることが多いとされていますが、末期腎不全に至る年齢は3~10歳あるいはそれ以降と幅があります。
腎障害(蛋白尿)や小頭症(てんかん・発達遅滞)の程度が軽く、比較的良好な経過で成人に達する軽症例も見られます。また、てんかん症状が先に見られて、後にネフローゼ症候群が見られる場合もあります。腎生検では巣状分節性糸球体硬化症という組織を示すことが多いとされています。
耳介の異常(耳の位置が低い、耳が柔らかいなど)を伴います。その他の顔面の形態異常(額が狭い、顎が小さい、口蓋が高い、目と目の間が離れているなど)を伴うこともあります。
筋肉の緊張の低下があり、呼吸障害や嚥下障害を来すことがあります。斜視や食道裂孔ヘルニア(胃の入口の一部が横隔膜の上に滑り出した状態)の合併が見られることもあります。
病気を根本的に治す方法はなく、病気に伴う症状を軽減する治療(対症療法)が主体となります。腎障害は進行性であるため、保存期(透析や腎移植が必要ではない程度の腎障害の時期)、透析期、腎移植期それぞれに必要な治療を行います。てんかんについては、長期の薬物療法が必要となります。
一般に症状は進行性です。3か月までに発症する早期発症の重症型では、てんかんによる精神遅滞や腎機能障害が進行して1~2歳までに死亡することが多いとされています。しかしながら、患者さんごとに腎臓や神経の障害程度はさまざまで、成人期まで日常生活の大きな支障をきたさず、緩除に進行する例もあります。
ギャロウェイ・モワト症候群による腎臓病であれば、病気に伴う症状を軽減する治療(対症療法)しかありません。ただし、治療可能な疾患が合併している可能性があるので腎臓専門医と相談してください。
「巣状分節性糸球体硬化症」という病名は、腎臓を組織学的にみた時につけられる病名で、原因には言及していません。大雑把に言うと、免疫が絡んでいるものと、遺伝的に腎臓の中の血液をろ過する構造の作り損いが起こっているものとあります。前者は腎移植後に高率に再発しますが、後者は再発しません。この疾患の腎病変は後者であり再発の心配は基本的にありません。
遺伝子がわかっていないので難しいですが、多くは常染色体劣性遺伝と考えられており、そう考えると同胞ごとに約1/4の確率で同じ病気になります。ただし、明確にお答えすることはできないので、主治医とご相談ください。