小児の腎臓病は,どれも個々の患者さんの数は多くない一方で,「罹病期間が非常に長期にわたる」「小児特有の合併症や薬の副作用がある」「成長・発達に大きく影響をおよぼす」など様々な問題点があります.この小児の腎臓病に関して,本邦における実態を把握し,またガイドラインや様々な診療の手引き,患者さん向けの資料の作成やホームページ等を介した情報発信を通じて,早期発見と適切な治療に結びつけていくことが強く求められています.
本研究班が対象とするのは,腎臓領域の指定難病,小児慢性特定疾病の中で,
・アルポート症候群(指定難病告示番号218)
・ギャロウェイ・モワト症候群(同219)
・エプスタイン症候群(同287)
・ネイルパテラ症候群/LMX1B関連腎症(同315)
・鰓耳腎症候群(同190.当研究では,直接の対象疾患とせず,難治性聴覚障害に関する調査研究班に協力し腎疾患、腎予後に関する研究支援を行う.)
・先天性腎尿路異常(小児慢性特定疾病)
・先天性ネフローゼ症候群(同)
・ネフロン癆(同)
・バーター/ギッテルマン症候群(同)
・小児特発性ネフローゼ症候群(同)
・ロウ症候群(同)
以上となります.これらの疾患に対して,日本小児腎臓病学会,日本小児科学会,日本腎臓学会等と連携し
1.学会承認された診断基準・重症度分類の改訂と普及
2.学会承認のもと作成される,エビデンスに基づいた診療ガイドラインや患者向けガイドの編集,改訂と普及
3.全国疫学調査で実態が把握された疾患のコホート構築と予後調査
を行っていきます.
個々の疾患の調査に加え,腎臓病の共通の病態である慢性腎臓病(chronic kidney disease,
CKD)に関しても調査を続けます.これは原疾患にかかわらず腎臓の機能が低下しいずれは透析や腎移植が必要になる病態です.私どもはとくに小児期のCKDは「小児CKD」として小児特有の背景や原疾患,合併症などを有する成人のCKDとは異なる病態と捉え,2010年からコホート研究を行っており,様々な実態が明らかにしてきました.今後も調査を続け,これらの患者さんが成人になった後の実態も解明していきたいと考えております.
さらに小児腎臓病は典型的な慢性疾患であり,患者さんが病気を患ったまま成人になります.これらの患者さんの成人後の医療,いわゆる成人移行医療に関しても整備が求められます.まずは神奈川県をモデル地区としてプログラムを作成し,成人となった後もここの患者さんにとってもっとも相応しい環境で診療を受け続けることができる環境を整備していきたいと思っています.
以上これらの研究活動を通して,冒頭に述べました小児腎臓病のさまざまな問題を解決し,小児の腎臓病患者さんに貢献し続けていくことを目指します.