これらの疾患は、先天性尿細管機能障害に伴い、低カリウム血症と代謝性アルカローシスを認め、それに伴う臨床症状を呈する症候群です。
バーター(Bartter)症候群は、通常新生児期から乳児期に発症し、ギッテルマン(Gitelman)症候群は、通常幼児期から学童期に発症しますが、無症状で一生を過ごすこともあります。
腎臓の尿細管は、尿のもとになる原尿から、体に必要な水分や電解質を再吸収するところです。バーター/ギッテルマン症候群では、生まれつき尿細管の機能に異常があるため、血液中の電解質が少なくなり、特に低カリウム血症により、脱力感や筋症状、多飲・多尿といった症状が現れます。ときに低身長などの成長障害を認めることもあります。また、一部のタイプでは末期腎不全に進行します。難聴を合併するタイプもあります。
また、それ以外にもいわゆる不定愁訴(倦怠感、頭痛、めまい、特に感冒時の著明な倦怠感)を認めることも多いですが、これらの症状が病気によるものと気づいてらっしゃらない患者さんもいらっしゃいます。
現時点では、特別な治療法はありません。電解質補充など対症療法が中心となります。ただし、非ステロイド系の抗炎症薬が有効であることがあり、電解質の補充のみで症状の改善を認めない場合はこれらの薬剤の投与を試してみることをお薦めします。
国内における大規模な受診者数調査で、平成29年時点では550人と推計されています。しかし、血液検査をしないと診断が付かない疾患であり、未だに未診断の患者さんも潜在的に多数いると思われます。
バーター症候群、ギッテルマン症候群はどちらも遺伝子の異常によることがわかっています。
大多数が常染色体劣性遺伝形式をとる疾患です。つまりご両親がともに偶然、無症状の遺伝子異常保因者であった場合、4分の1の確率でこどもさんは病気を発症します。患者さんご本人からお子さんに遺伝する可能性はほとんどありません。
バーター症候群の一部は、末期腎不全に進行します。低身長などの成長障害や難聴を合併するタイプもあります。
ギッテルマン症候群はバーター症候群より軽症で、腎予後は良好です。
ですが両疾患ともに、前述のように倦怠感などの不定愁訴により日常生活に支障をきたすことがあります。
腎臓は血液中の余分な水分や必要のない老廃物を尿中に排泄するための臓器です。それにより、体中の血液は常にきれいな状態に保たれますし体内の水分量や電解質濃度が一定に調節されます。言葉で書くと簡単ですが、その過程においては、
1. 動脈から大量の血液を腎臓に還流させる(図1)。
2. 腎臓の糸球体という場所から血液中の過剰な水分、老廃物を尿細管という管へ排出する図2)。
3. 血液中の電解質のバランスを整えるために、尿細管内の尿と毛細血管内の血液の間で電解質の交換を行う(図2)。
4. その後、尿は尿細管から尿管、膀胱へと流入する(図1)。
5. 浄化されてきれいになった血液が静脈に流入する(図1)。
など、非常に複雑な作業がなされております。
この病気は上で説明した尿細管において、ナトリウムとクロライドという電解質を尿から毛細血管内に輸送するための輸送体を作る遺伝子に異常があると発症します。そのためにナトリウムが尿に大量に漏れ出します。体に必要なナトリウムが尿中に漏れ続けるのを阻止するため、同じ陽イオンであるカリウムとマグネシウムも大量に尿に漏れます。それにより、血液中のカリウムとマグネシウムが減ってしまい、低カリウム血症、低マグネシウム血症を発症する病気です。
低マグネシウム血症、低カリウム血症により、疲れやすい、手足がしびれる、手足がつる、筋肉痛、頭痛等の症状を認めます。また、先ほど記載したとおり、ナトリウムが大量に尿中に漏れるので、尿の浸透圧が高くなるため、たくさんの水分も一緒に尿中に漏れ出してしまいます。そのため、たくさん飲んでたくさん尿が出る(多飲、多尿)を認めるのもこの病気の特徴です。特に夜間は本来尿量が減るはずですが、ギッテルマン症候群患者さんでは夜間も頻回に排尿するため、夜尿症や夜に1~2回トイレのために目を覚ますということがあります。さらに、感冒時などは普通ではあり得ないくらいぐったりしてしまい、輸液や入院加療が必要となることもあります。その他、身長の低い人が多いのも特徴です。一方、全く無症状で一生を過ごす方もいます。
特徴的なのは、この病気の患者さんはナトリウムが大量に尿中に漏れるため、それをおぎなうために塩分(ナトリウム)
の濃い食事を好みます。小児期には醤油をそのまま飲んだり、塩をなめたりする子もたくさんいます。これはさすがにおすすめできませんが、ある程度塩分の濃い物を食べるのは許容する必要があります。
非常にまれな合併症として、QT延長症候群という、不整脈から突然死を起こすような合併症も報告されておりますが、この不整脈は適切に電解質を補充することでほとんどの場合消失します。
すべての症状の改善のために、治療により、カリウムとマグネシウムの値をある程度以上に保つ必要があります。
治療法は、まず第一にカリウムおよびマグネシウムの補充です。これにより、血液中のカリウム値、マグネシウム値が上昇します。ただし、それでも色々な症状が残ることがあります。また夜尿や多尿に対しては全く無効です。日常生活において不便が出るほどの症状が残っている場合は非ステロイド系抗炎症薬(商品名:
インフリー、インテバンなど。インテバンですが2019
年現在日本国内では販売中止となっています)という薬の内服を行います。現時点ではこの薬が最も有効と考えられていますが、長期に内服することで、腎臓への副作用が出ることもありますので注意が必要です。
診察できる科は小児科および内科ですが、比較的まれな疾患ですので、ほとんどの医師がこの病気の診療経験がありません。そのため、患者さんからのギッテルマン症候群に伴う症状の訴えがあっても、正確に診断や判定ができないこともあり得ます。
軽症の病気と考えられがちですが、すぐに疲れるといった症状が年齢とともに顕在化し、仕事を続けるのがつらいなど日常生活に支障を来すことがあります。上述の非ステロイド系抗炎症薬の内服で、ある程度症状が緩和される可能性もありますので、医師との相談が必要です。
また腎臓の機能がゆっくりと悪化する患者さんもおり、透析が必要となった患者さんも報告されております。さらにカリウム値のコントロールを行っていない場合、上述のように非常にまれですがQT延長症候群から不整脈や突然死を発症することもあります。
ギッテルマン症候群に伴う症状は思春期で良く認める不定愁訴(だるい、頭がいたい、すぐに疲れるなど)がほとんどです。そのため、「気持ちの問題」などと解釈されてしまうことがあり、その点には十分な配慮が必要です。また思春期にもかかわらず夜尿を毎晩認め、深く悩んでいる患者さんもいます。一般的な夜尿症の治療薬はあまり効果がありません。その点も理解してあげることが必要です。さらに、感冒(インフルエンザなど)の際には、ぐったりしてしまい、大げさに見えるくらい重症感が増すのもこの病気の特徴です。感冒時にはゆっくり休養できるように配慮をお願いします。
ギッテルマン症候群の患者さんは、倦怠感、めまい、筋力低下などのいわゆる不定愁訴を呈することが多く、精神科領域の疾患と間違われることがあります。また、平時からの倦怠感に加え、感冒時には更なる倦怠感および活動性の低下を認めることもあります。以下に成人ギッテルマン症候群患者さんでよく認める症状とその発症頻度を記載します。塩分嗜好(塩辛い食べ物を好む):90%、筋けいれん(こむら返り):84%、疲労感:82%、めまい:80%、夜間頻尿:80%、口渇:76%、筋力低下:70%(CruzらKidneyInt 2001より抜粋)。このような症状の大部分が病気からくるものであると考えられます。本人のみでなく、周囲にもギッテルマン症候群の症状をしっかり理解をしてもらえるよう環境を整える必要があります。
ギッテルマン症候群の患者さん用パンフレットダウンロード
必須条件
1. 低カリウム血症(血清カリウム:3.5mEq/L以下)
2. 代謝性アルカローシス(血液ガス分析[HCO3-]:25mEq/l以上)
参考条件
1. 血漿レニン活性の増加
2. 血漿アルドステロン値の増加
3. 正常ないし低血圧
4. 羊水過多、早産、低出生体重、腎石灰化および高カルシウム尿症(1型、2型バーター症候群が強く疑われる)
5. 羊水過多、早産・低出生体重および難聴(4型バーター症候群が強く疑われる)
6. 低マグネシウム血症、低カルシウム尿症のいずれかまたは両方(3型バーター症候群またはギッテルマン症候群が強く疑われる)
*上記4−6に当てはまらない場合、3型バーター症候群の可能性を考える
鑑別診断
以下の疾患を鑑別する。
1.二次的要因:利尿剤・下剤の使用、重症妊娠悪阻、神経性食思不振症、習慣性嘔吐、過度のダイエット、アルコール中毒でいわゆる偽性バーター/ギッテルマン症候群を発症する。
2.他の遺伝性疾患:腎低形成、ネフロン癆、Dent病、ミトコンドリア病、常染色体優性低カルシウム血症(Autosomal dominant hypocalsemia:
ADH)などの先天性腎尿細管疾患やのう胞性線維症、先天性クロール下痢症。こうした疾患において、同様の病態を呈することがあり、その場合バーター症候群との鑑別は非常に困難であることがある。特に、カルシウム感知受容体(CaSR)遺伝子(CASR)の活性型変異により発症するADHに伴い、BSと同様の病態を発症することが報告され、5型バーター症候群と分類されることがある。しかし、CASRに変異を有してもほとんどの場合バーター症候群様症状を呈さないことから、本診断基準においてはバーター症候群の1亜型には含まないこととする。
遺伝学的検査
表1を参考に遺伝子診断を行う。最近では次世代シークエンサーを用いた解析により、すべての病型を網羅的に解析することが可能である。
以下のDefniniteを対象とする。
Definite: 必須条件2項目を満たし、鑑別疾患を除外したもので、遺伝子診断で原因遺伝子変異が同定されたもの。
Probable: 必須条件2項目を満たし、鑑別疾患を除外したもので、遺伝子診断で原因遺伝子変異が同定されていないが(未施行または施行したが同定されなかった)、参考条件のうち3項目を満たすもの。