先天性腎尿路異常
(CAKUT)

先天性腎尿路異常

はじめに

先天性腎尿路異常(Congenital Anomalies of the Kidney and Urinary Tract: CAKUT;「カクート」と呼びます)は、 「腎臓」と「腎盂・尿管・膀胱・尿道」といった “おしっこの通り道” である「尿路」に起こる病気です。多くの場合、 お母さんのおなかの中でヒトの各臓器が作られていく過程で、「腎臓」や「尿路」の形や働きが適切に作られなかったことが原因です。

あなた(お子さん)はこの中のどの病気でしょうか

 CAKUTはさまざまな病気が含まれます。ここではその一例を紹介します。

低形成腎

腎臓の大きさが普通よりも小さく、働きが悪い。

異形成腎

腎臓の構造が悪くうまく働かない。
片側のみ「低形成・異形成腎」の場合は、反対側の腎臓が大きくなっていることが多い(代償性肥大)。

多のう胞性異形成腎

腎臓の一部または全部が水風船のような水のたまり(のう胞)ができていて、働きがない。

腎瘢痕

腎臓が細菌感染などで障害をうけて傷あとを残して治った部分。

先天性水腎症

腎盂が尿管につながる部分がせまくなっていて、おしっこの流れが悪くなり、腎盂がふくらんでいる。

巨大尿管

尿管が膀胱につながる部分がせまくなっていて、おしっこの流れが悪くなり、尿管が太くなっている。

尿管異所開口

腎臓からつながる尿管が膀胱の適切な場所につながっていない。

尿管瘤

尿管が膀胱につながる部分で、膀胱の中に瘤のようにふくらみ、おしっこの流れが悪い。

膀胱尿管逆流

膀胱内のおしっこが尿管や腎臓に逆戻りする(普通はこのような逆流はありません)。
逆流の程度は5段階に分類される。

後部尿道弁

尿道がせまくなっていて、おしっこが出しにくい

腎臓の働き

腎臓は様々な働きをしています。
腎臓が悪くなるとどのような症状があらわれますか?

*低形成・異形成腎のお子さんは、もともと他のお子さんよりも尿量が多いことも特徴の一つです。

治療法

1. 薬物療法

高血圧や尿蛋白は長く続くと、腎臓の働きを悪くする可能性があります。 これらを抑えることにより、末期腎不全への進行を少しでも遅くすることを目的としています。  高血圧を伴うCAKUTの小児では、レニンアンジオテンシン系阻害薬を中心とした血圧を下げる治療を行います。 これらの薬は血圧を下げる働き以外に、蛋白尿を減らす働きや腎臓を守ってくれる働きもあると考えています。

a) ⾎圧管理

適切な血圧にすることで、低形成・異形成腎においても腎臓の働きが悪くなるのを抑える可能性があります。 血圧が高い場合には年齢・体格に合わせた血圧になるように、お薬で血圧を下げる治療を行います。 血圧を下げるお薬にはレニンアンジオテンシン系阻害薬、カルシウム受容体拮抗薬などがあります。

b) 尿蛋白を減らす効果
腎臓を守る効果

尿蛋白を認める場合は、尿蛋白を減らすことにより腎臓の働きを悪くするのを抑える可能性があります。 日本の腎臓の働きが悪い小児(CAKUTの小児が62%を占める)を対象とした研究では、 尿蛋白が腎臓の働きを悪くする危険因子でした。

レニンアンジオテンシン系阻害薬、カルシウム受容体拮抗薬のいずれも、 脱水時に急激に腎臓の働きを悪化させる可能性があります。特に乳幼児など、 経口摂取が安定せず脱水となる危険性の高い小児の場合は、脱水になりやすい時 (水が飲めない・嘔吐・下痢など)にはお薬を飲むことをやめる、などの対応が必要となるこがあります。 主治医に相談してください。

2.水分摂取・塩分(ナトリウム)摂取

尿量の多いCAKUT(特に低形成・異形成腎)の小児では、 水分・塩分の補充をすることで腎臓の働きが悪くなるのをゆるやかにし、成長を促す可能性があります。 尿量の多いCAKUTの小児では、尿からたくさんの水分・塩分が出ていってしまいます。 特に低形成・異形成腎では腎臓の働きが悪くなっても、尿量が多い状態が続き脱水となることがあります。 適切な水分や塩分を保つことは筋肉の成長に必要なので、不足すると成長障害も引き起こします。

血液検査でナトリウム低下を認めなくても、塩分不足の可能性があります。 そのため体重減少や血液検査で水分不足の結果などがあれば、塩分および水分を補充することが必要です。 母乳や普通ミルクには塩分がほとんど含まれていません。 したがって、乳児が塩分不足を認める場合には、塩分補給を目的とした塩分の多いミルクとして、 明治低カリウム・中リンフォーミュラ(標準濃度15%でNa27mEq/L 商品名:明治8806H)を使用することがあります。 このミルクは塩分の含有量が多いほか、カリウムが普通ミルクよりも抑えられていることが特徴です。 また、乳児期から慢性腎臓病の状態にある小児では食欲が低下していることがあるため、 チューブ栄養などを用いた水分や塩分の補充が必要となることがあります。

3. 栄養療法

CAKUTの小児もほかの小児と同じように、十分な栄養を摂取することが重要です。 体格などにより異なりますが、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 を指標にするのがよいと考えられます。

推定エネルギー必要量 (kcal/日) 推定エネルギー必要量
推定エネルギー必要量 (kcal/日) 推定エネルギー必要量

4. 手術療法

CAKUTには、尿路のどこかに流れが悪い部位がある、尿路が適切な場所につながっていない、 普通では存在しない尿の逆流がある、といった病態が多いです。 これらを直すのが手術療法です。

a) 腎盂形成術

先天性水腎症の治療です。 腎盂が尿管につながるせまい部分を切り除き、腎盂と尿管を新しく縫い直します。
縫合部の腫れやむくみが取れるまで尿管ステントカテーテルを留置します。

b) 逆流防止術

膀胱尿管逆流の治療です。

b-1) 膀胱尿管新吻合術

膀胱と尿管を粘膜下トンネルを作って新たに縫い直し、膀胱から尿管への尿の逆流がおこらないようにします。 巨大尿管、尿管異所開口、尿管瘤でも同様の縫い直す手術を行います。 巨大尿管では尿管が膀胱につながるせまい部分を、尿管瘤では瘤の部分を切り除いてから縫合します。

b-2) 内視鏡的注入療法

内視鏡で膀胱内を観察しながら尿管口の近くにDeflux(デフラックス)という膨隆材を注入して、 膀胱から尿管への尿の逆流がおこらないようにします。

c) 経尿道的弁(瘤)切開術

後部尿道弁や尿管瘤の治療です。尿道から細い内視鏡を入れて、 内視鏡の先に付けたメスで弁や瘤を切開して、尿の流れをよくします。

Q&A

qa01
Q

CAKUTの小児では予防接種を
打っても大丈夫ですか?

A

感染症にかかりやすく重症化する可能性もあるため、 積極的に予防接種を行うことを推奨しています。不活化ワクチン、 生ワクチンともに健康な小児と全く変わらないスケジュールで接種することが 望ましいと考えています。

qa02
Q

お薬はどのくらいの期間飲まなければいけないのですか?

A

内服を開始した場合、基本的にはずっと継続が必要です。 しかし、腎臓の働きの悪さの程度や食事の状況、腎代替療法 (透析や移植)開始により、必要な内服薬や期間は大きく異なります。

qa03
Q

運動しても大丈夫ですか?

A

運動制限をしても腎臓の働きが悪くなることを抑えられるかは明らかではないため、 運動制限は推奨されていません。 ただし激しい運動部活動による長期的な腎への影響は明らかではなく、 合併する高血圧や心不全では病状に応じた運動制限が必要となります。 一方で運動制限は精神的なストレスも含めて生活の質を低下させ、 過度の運動制限では骨折などの重大な副作用をもたらす可能性があります。 現状ではこれらのことを総合的に考慮する必要があります。

qa04
Q

食べてはいけない食べ物は
ありますか?

A

小児の場合は、たんぱく質を制限することで腎臓の働きが悪くなるのを抑えられるかは 明らかではなく、成長のことを考えるとたんぱく制限は推奨されていません。 高血圧を伴う場合は、塩分を制限すると血圧が下がり、 腎臓の働きが悪くなるのを抑える可能性があります。 しかし、尿量が多く、塩分を失いやすい小児では塩分制限はすべきではありません。 更に、腎臓の働きの悪さの程度によって、食事の制限が必要となることがあります。 末期腎不全に至ると、血液検査の結果により、電解質(カリウムやリンなど)の摂取制限が 必要となることがあります。

医療費の助成制度について

「小児慢性特定疾病」による医療費助成制度が受けられます  CAKUTの一部は「小児慢性特定疾病」の対象疾患になっています。 このため、CAKUTと診断された場合は、あなたの病気が「小児慢性特定疾病」 の対象になっているかどうかを主治医に確認してください。多くの場合、 腎臓の働きが悪くなっている場合に対象となります。「小児慢性特定疾病」 の対象になっている場合は、所定の申請手続きを行い認定されるとご自身のご病気に 伴う医療費の助成が受けられます。

申請の流れ

「小児慢性特定疾病」の申請手続きについて

小児慢性特定疾病の医療費助成の申請については以下のとおりです。

  • 指定医療機関にて受診を受ける。
  • 指定医療機関にて診断後、医師より小児慢性疾病の医療意見書を手交してもらう。
  • 2で手交された医療意見書を添付の上、医療費助成の申請を都道府県、指定都市、中核市に提出する。 申請のための書類(医療受給者証申請書)に関しては、各都道府県、指定都市、中核都市にお尋ねください。
  • 小児慢性特定疾病審査会にて審査を行う。
  • 都道府県、指定都市、中核市より「認定」・「不認定」をご通知する。

※医療受給者証の有効期限は原則1年です。継続して受給したい場合には、毎年申請手続きを行ってください。

用語解説

慢性腎臓病
(Chronic Kidney Disease:CKD)とは

慢性腎臓病(CKD)とは尿検査、血液検査、画像検査(超音波、CT、MRI、造影検査、核医学検査など)で腎臓の働きが悪い状態です。 腎臓の働きの悪さの程度によって、表のようなステージに分けられます。 血液検査でのクレアチニンの値から、腎臓で濾過できる量(推定GFR値)を計算することができ、その値で分類します。

末期腎不全

腎臓の働きが悪くなり、透析や腎移植が必要な状態です。CKDステージ5の状態です。

腎代替療法

透析(血液透析、腹膜透析)や腎移植のことです。CKDステージ5になると必要となります。

CKDの分類
CKDの分類CKDの分類

この病気に関する資料・関連リンク

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