普通は血液の中から漏れない蛋白が尿の中にたくさん出てしまい、血液中の蛋白が減る(低蛋白血症)ことが特徴の疾患です。それに伴い、むくみ(浮腫)、脂質異常症、凝固線溶系異常(血が固まりやすくなる)、免疫異常症(バイ菌による感染症にかかりやすくなる)など様々な症状があらわれます。生後3ヶ月以内に発症するものを先天性ネフローゼ症候群 (congenital nephrotic syndrome: CNS)、それ以降、1年以内に発症するものを乳児ネフローゼ症候群 (infantile nephrotic syndrome: INS) と言います。先天性ネフローゼ症候群の代表的なタイプがフィンランド型先天性ネフローゼ症候群 (congenital nephrotic syndrome of the Finnish type: CNF) です。
生後3カ月以内にネフローゼ症候群を発症し、以下の臨床症状や検査所見を満たす場合に暫定的に診断されます。可能な範囲で腎臓の組織や遺伝子の検査を行い、総合的に診断します。
お母さんのお腹の中にいる時からたくさんの蛋白が尿中に漏れることにより、羊水成分の異常が認められます。また、胎盤の重さが赤ちゃんの体重の25%以上という巨大胎盤になることが知られています。しかし、妊娠中に診断されることは少なく、通常は出生後に診断されます。
多くの患者さんが、生まれてまもない時期からネフローゼ症候群(高度蛋白尿、低アルブミン血症)を呈し、高度な全身のむくみや腹水、大泉門が離れて広がるなどの症状が出現します。また、中枢神経や心臓の機能に軽度な異常を伴う場合もあります。
小児特発性ネフローゼ症候群とは異なり、フィンランド型先天性ネフローゼ症候群に対する薬物療法は存在しないため、最終的には腎移植が必要になる疾患です。
はじめは、高度のネフローゼ状態に対する対症療法を行います。むくみの管理のため点滴でアルブミンの補充や利尿薬の投与を定期的に行う必要があり、そのために入院期間が長くなります。点滴でのアルブミンの補充が長期間にわたり毎日必要となる場合には、心臓に近い太い血管である中心静脈にカテーテルを長期間留置して点滴投与に使用する場合もあります。
カプトプリルやインドメタシンを用いて尿蛋白の減量を試みる治療を行うことがあります。また十分な栄養を与えるために、鼻から管をいれてミルクを注入することが必要となることがあります。蛋白以外に色々なものが尿に漏れるので、ビタミンDを含めたビタミン剤や、ミネラル、甲状腺ホルモンなどの補充も適宜行います。合併症として起きる血栓予防や感染症に対する迅速な対応も重要となります。
上記の治療を行ってもむくみのコントロールは難しいことが多いため、蛋白が漏れている腎臓自体を取り出して蛋白を漏れないようにする治療が一般的に行われます。日本では片側の腎臓を取り出す(片腎摘出)ことにより管理が可能となる患者さんが多く見られます。状況により、両方の腎臓を取り出すこともあります。
腎臓を取り出す治療をした後は、老廃物を体の外に捨てるという腎臓の働きも失われるので、その替わりをするために腎機能に応じて透析療法が必要となります。通常、小児では腹膜透析(peritoneal dialysis: PD)を選択します。腎移植ができるような体格*になり、腎移植をするための条件**がそろったら腎移植を行います。
日本では、2015年4月1日時点での調査では、フィンランド型先天性ネフローゼ症候群は10万人あたり0.30人と報告されています。フィンランドではその頻度は多く約8000人に1人と言われています。
NPHS1フィンランド型先天性ネフローゼ症候群の原因遺伝子として報告されているのはNPHS1遺伝子ですが、検出されない患者さんもいます。
また、フィンランド型以外の先天性ネフローゼ症候群の例ではNPHS1遺伝子以外の遺伝子の異常を認めます。
NPHS1遺伝子の異常の場合は常染色体劣性遺伝形式をとります。
かつてフィンランド型先天性ネフローゼ症候群は死亡率が高く予後は不良でしたが、片側または両側の腎臓を摘出した後に腹膜透析(PD)を経て腎移植を行う方法が行われるようになり、生命予後の改善と身体発育障害及び精神運動発達遅延の改善が得られるようになってきています。
新生児期から高度な集中治療管理が必要になることがあります。また将来的には小児の腹膜透析が可能な施設で治療を行い、小児の腎移植ができる施設で移植を行います。そのため、小児腎臓専門医が勤務している大学病院や小児病院と連携を取れる施設が望ましいです。
日本の全国アンケート調査によると、2015年4月1日時点で16歳未満の33例のフィンランド型先天性ネフローゼ症候群のうち25例において片方の腎臓を取り出す治療(片腎摘術)が行われ、その時期の中央値は13ヶ月(3ヶ月〜96ヶ月)でした。
生まれてまもない時期からネフローゼ症候群の症状を呈し、高度な全身のむくみの治療が必要となり、入院での治療が必要となることが多いです。片方の腎臓を取り出す治療を行ったり、尿の蛋白が減る薬を試みたりしながら、むくみが良くなり点滴でのアルブミン投与が必要なくなるまで入院が必要になります。半年から1年程度の入院期間を要することが多いですが症状や施設によりその期間には幅があり、治療中にバイ菌などによる感染症にかかると更に入院期間が長くなります。
口でミルクを飲める場合もありますが、高度な全身のむくみの影響でお腹に水が溜まってパンパンになったり、腸がむくんだりすることで食欲がなくなり、栄養として必要な量のミルクを十分に口から摂取できないことが多くあります。そのために、鼻から管を入れてミルクを直接胃や十二指腸に注入したり、胃に直接管を入れて(胃瘻)、その管から十分な栄養を入れることが必要になります。
高度な全身のむくみの治療が必要な時期は、アルブミン補充のために点滴での治療を行います。アルブミン補充は毎日必要になることがあります。また体から漏れ出る様々な成分の補充を点滴や内服でも行います。片方の腎臓を取り出した治療を行い腎臓から漏れ出る蛋白が減った後には、内服薬で必要な成分の補充をしながら通院で治療を続けます。