移行医療とは

移行医療とは、『子どもから大人への成長をサポート(支援)して、子どもの医療から大人の医療へ移る(移行)ための架け橋となる医療』です。

小さなころから病気と闘っている皆さん(お子さん)が、自分の病気についての正しい知識を持って、自分で病気を管理できるような大人になるためには、お手伝い(支援プログラム)が必要です。

1980年代頃から小児医学の進歩により、子どものころから続く病気(小児慢性疾患)の治療が良くなり、大人(成人期)になる患者さんが増えてきました。これらの患者さんが大人(成人期)になった際の治療をどうしたらよいか議論されるようになり、1990~2000年頃からアメリカでより深く検討されるようになりました。また、日本でも2010年頃より積極的に議論されるようになりました。2014年に日本小児科学会から初めての提言「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」が発表されました。

提言では、子ども(小児期)から大人(成人期)になることで生じる“体や心の変化(思春期など)”や“環境の変化(進学/就職や結婚など)”に合わせた治療の取り組みが成されることが皆さんにとってより良いとされています。 移行医療は、小児科から成人科に移ること(転科)だけではなく、皆さん自身が自分の病気について正しい理解をもつこと、就学や就職など将来の自分をイメージできるようになることを目標としています。

また、子どもの医療と大人の医療の間には様々な違いがあります。同じ病気であっても子どもと大人で使う薬が違うなど治療の仕方が異なるものもあります。皆さんやご家族とお医者さんや看護師さん(医療者)との関わり合い方が違ったりすることもありますし、社会制度(医療保険など)の違いもあります。これらの違いを皆さんやご家族にご理解していただくことが大切です。

移行プログラムとは、これらのことを考慮して、皆さんやご家族と一緒にチームを組んで、計画的に時間をかけて移行に取り組んでいくシステムのことです。移行プログラムは施設毎に呼び方が多少異なりますが、全国の様々な施設で整備されるようになってきています。詳細については「移行プログラムとは」の項目を参考にしてください。

なぜ移行/転科が必要なのですか?

「移行」と聞くと「成人の病院にうつること」と思われる方も多いかもしれません。
「成人の病院へうつること」は「転科/転院」といいます。「転科/転院」は「移行」の中の一部の出来事で、ゴールではありません。

自分の病気についてちゃんと知ること、自分で自分のことを考えることが大切であることは皆さんもご理解頂けると思います。 小児科では、それぞれのお子さんの成長・発達に合わせて、患者さんが自分の病気に対する理解を深め、将来自らの医療について自己決定ができる自律性を身につけるための自律支援を、日常的な診療の場面でも取り組むことを常に心がけています。

皆さんにも小学校高学年くらいになったら、まずは自分がどんな病気で病院に通っているのか、なんで病院に通わないと行けないのかきちんと知ってもらいたいと思います。急に自分の病気のこと、治療のことを理解し、自分のことは自分で管理をして下さい、と言われても難しいですよね?小学校高学年くらいからゆっくり時間をかけて、自分の病気と向き合うこと、自分の病気について知り、自立/自律性を獲得することが「移行」の大事なポイントです。

もちろん「転科/転院」も大事です。
小さい頃から診てもらっている先生にずっと診てもらいたいという気持ちもとてもよく分かります。しかしお医者さんだって専門があって得意・不得意があります。小児科の先生は、皆さんが大人になって直面する成人に特有の病気には不慣れです。例えば生活習慣病(大人になると増えてくる、糖尿病や高血圧など)や悪性腫瘍(癌)、妊娠・出産への対応は苦手です。また患者さんによっては小児科の救急外来を受診することは大きなハードルがあったり、子どもが沢山入院している病棟に入院するのは居心地が悪いと感じたりすることもあるかもしれません。 いつ転科するのがいいのか決まった時期はありません。慌ただしく転科する、ということにならないように、主治医の先生と皆さんにとっていいタイミングについてゆっくりと時間を掛けて相談をして準備を進めましょう。

移行プログラムとは

移行プログラムは皆さんの自立/自律を助け、将来スムーズに大人の病院へ転科できるよう準備を一緒にしていく一連の取り組みです。


移行プログラムはなるべく早い年齢から始めることが望ましいと言われていて、自分の病気を理解することが出来る、だいたい小学校高学年くらいから始めることが薦められています。プログラムには患者さんが主体的にかかわっていくことが大切で、なぜ病院を定期的に受診しているのか、自分の病気はどんな病気か、など、少しずつ興味・知識を持つことから始めます。お医者さんや看護師さん、さらには薬剤師さん、心理士さん、ソーシャルワーカーさんなど色々な職種のみんなでチームを作り、協力していきます。

東京都立小児総合医療センターの移行プログラムを一例として紹介します。 東京都立小児総合医療センターでは、15歳になった初回の外来で本人に「移行について」というA4表裏からなるパンフレットをお渡ししています。中には「なぜ移行が必要なのか?」「どうして自分の病気について知ることや自立が大事なのか?」などが書かれています。皆さんに「移行が大事なんだ」ということを知ってもらい、次に「移行期看護外来」の受診してもらいます。「移行期看護外来」では、移行支援ツールの項でも紹介した、「移行チェックリスト」を使って、皆さんの自立支援について皆さん主体におこなっていきます。 看護師さんは、「みんながどんなことが分かっていて、どんなことがわかっていないのか?」「どんなことは出来ているけれど、どんなことが出来ていないか?」を1つずつ確認してくれます。またこの結果を主治医の先生と共有し、分からなかったことは先生達が外来でもう一度説明してくれます。これを繰り返すことで、みんなきちんと自分の病気のことを理解し、自分のことをちゃんと自己管理できるようになっていきます。ちゃんと理解ができたということが確認できれば、移行期看護外来は一旦卒業です。

次は18歳になったときに、もう一度移行期看護外来を受診してもらい「移行サマリー」を自分で書き上げてもらいます。移行サマリーを自分で書くことができれば、準備は万端です。 実際に大人の病院に転院する時期は主治医の先生と話しあって決めていきましょう。

小児科の先生と大人の先生はちゃんと連絡を取り合って、情報の共有を行うので安心してくださいね。また大人の病院に移ったら小児病院は卒業というわけではなく、少しの間両方の病院を一緒に受診して、安心してから成人の施設に移ることもできます。

移行支援ツールについて

成人の病院に転科/転院する前に、患者さん自身が自分の病気のことをきちんと理解し、自分のことをしっかり自分で決められる力(自律)を付ける必要があります。そのためには、何が出来ていて、何が出来ていないのかを患者さん自身に知ってもらう必要があります。移行支援ツールはこれを助けてくれるもので、「移行チェックリスト」と「移行サマリー」があります。

1.移行チェックリスト

移行チェックリストは、「病気について」「検査について」「現在飲んでいるお薬について」などが理解できているか、「自分でお薬の管理をしているか?」「外来の予約の変更ができるか?」「受診しなければいけない症状が分かるか?」など自分で管理がしっかりできて、自立/自律ができているか、を確認する項目からできています。

病院によってそれぞれのチェックリストを使用することが多いですが、参考までに東京都立小児総合医療センターの移行期看護外来で使用している移行チェックリストをお示しします。

 東京都立小児総合医療センターの移行チェックリストをダウンロード

チェックリストに答えることで、あらためて自分がきちんと自分の病気のことを理解できているのか、自分に不足している点を明らかににすることができます。またどんなことを知っておくことが大事なのかを知ることもできます。また皆さんに回答してもらったチェックリストを先生や看護師さん達、みんなで共有することで、皆さんがどれくらい自分の病気のことを理解しているのかなど知ることができるので、先生や看護師さんが皆さんの分からないと思う点を外来などで補って説明してくれます。

2.移行サマリー

移行サマリーは初めて病院にかかった時から今までの病気の経過や、検査の結果、今まで受けた治療、今飲んでいるお薬について、普段の生活で気を付けないといけない点、急に具合が悪くなった時どうしたらいいのか、病院の担当の先生の連絡先などをまとめたものです。決まった書き方はありませんが、皆さんに自分の言葉でサマリーを書いてもらい、大人の病院へうつる時に持っていってもらいます。

自分の言葉でサマリーを書くことで、自分の病気のことや今までの経過などについてもう一度自分の中で復習して確認できますし、検査の結果や治療について理解を深めることができます。また自分の言葉で書くことで、大人の病院を受診した時に、大人の病院で担当してくれる先生に自分の言葉で病気の説明をするのを助けてくれると思います。参考までに東京都立小児総合医療センターの移行期看護外来で使用している移行サマリーを載せますので、見てみてください。

 東京都立小児総合医療センターの移行サマリーをダウンロード

この病気に関する資料・関連リンク

移行医療について、様々な提言やガイドがだされており、以下に一部をご紹介させていただきます。
また、書籍、病院や自治体のホームページ、腎臓以外の各学会からも移行医療について紹介されておりますで、ぜひご参考にして下さい。

日本腎臓学会,日本小児腎臓病学会


日本小児科学会

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